最終回となる第5回のテーマは、「アンサンブルでやっていく」。過去数多の劇団を生み出してきたアンサンブル制度とは一体どのようなものなんでしょうか?また、現在アンサンブルとして活動している劇団露と枕のお話も聞きました。
旗揚げだ!
劇研では同時期に最大3つのサークル内劇団(これを劇研ではアンサンブルと呼ぶ)を旗揚げることができます。ここで生まれたアンサンブルは地盤を固めると、やがて巣立っていきます。「第三舞台」、「東京オレンジ」、「山の手事情社」、「少年社中」も元はアンサンブルです。
現在劇研アンサンブルは2つありますが、「露と枕」は卒業を控えており、「ボクナリ」も活動休止中のためまさに旗揚げチャンス!
露と枕 旗揚げ試演会『桎梏ブランコ』撮影:井上良
旗揚げには、劇研のアンサンブルとして劇研員から認められるため、「企画公演」で力を試し、「旗揚げ試演会」を上演するのが通例です。短い道のりではないかもしれませんが、劇研は旗揚げをしたい人を待っています。ぜひ挑戦してください。
劇研員インタビュー
本日は、劇研アンサンブルである露と枕主宰、井上瑠菜さんと、劇団員の北原葵さんにお越しいただきました。
井上瑠菜(いのうえるな)
2015年、早稲田大学演劇研究会に入会。
2018年には主宰としてアンサンブル露と枕を旗揚げ。露と枕全作品の脚本・演出を担当する。
北原葵(きたはらあおい)
2018年、早稲田大学演劇研究会に入会。
主な出演作に、ペナペナG×早稲田大学演劇倶楽部第33期新人企画#2『エスカルゴ』、あやめ十八番『しだれ咲きサマーストーム』、劇想からまわりえっちゃん『たまには卒アル読み返せ。ついでに見つけたコーラ味の消しゴムが仄かにまださ、臭いじゃん。そんな感じ!』など。
この劇団にいつか関わりたい!と思い劇研へ
―軽く自己紹介をお願いします
井上 はい!演劇研究会の6年目になります。井上瑠菜です。10月2日に24歳になります。よろしくお願いしまーす。
北原 演劇研究会3年代の北原葵です。22歳になります。お願いしまーす。
―なぜ劇研へ?
井上 私は演劇をやろうと早稲田大学に入り、新歓ブースをめちゃめちゃ回っていた時に劇研のブースに行き着きました。そこで渡されたアンケートに志望の役職を書く欄があって、高校の時にちょっとだけ脚本を書いたこともあったので、「なんかやりたいなー」みたいな軽い気持ちで脚本に丸を付けてみたんです。そしたら、劇研は劇団をたてるサークルだし、今年はちょうど劇団をたてる人を探している、女の子は主宰になった人が今までいないんだよと話をされて。じゃあやってやろうじゃないかと (笑)
―はじめから劇研に決めていたわけではない?
井上 そうですね。他のサークルにも2、3回行ったんですが、劇研が良いなと思って劇研にしました。
―それは劇団がたてられるから?
井上 っていうのもあるんですけど、最初に行った劇研のお試し稽古が引くほどガチで、忘れられなくて(笑) これはガチ勢としてガチでいこうみたいな…… (笑)
北原 私も本当にいろんなところのワークショップに行きまくっていて、どこも楽しくって友達も増えるし選べなくってどうしようって思っていたんです。でもちょうどその時いろいろと新歓公演をやっていた時期で、たまたま劇研の露と枕が公演をやるっていうので千秋楽の『桎梏ブランコ』を見に行ったらすっごい好きで、うわぁこの劇団に絶対いつか関わりたい!と思い、迷いに迷ったんですけど劇研にしました。
露と枕 旗揚げ試演会『桎梏ブランコ』撮影:井上良
それともう一点は、スタッフワークにも興味がとってもあって、結構他のサークルだとぶたび(早稲田大学舞台美術研究会)に入らないとスタッフワークができないみたいなところが多かったんですけど、劇研はここでスタッフワークも教えられるよと言われたのでどっちもできそうな劇研を選びました。
注:スタッフワークが盛んといえば、早稲田大学には舞台美術研究会の他にも劇団木霊というサークルがあります。各早稲田演劇サークルについてはこちらもチェック。
―もともと照明もやりたかったんですか?
北原 舞台照明が昔からなんとなく好きで、舞台照明っていうかキラキラしたものが好きで、あかりが好きで、イルミネーションとかも好きで。自分がいつかあれを操作してみたいしなんなら自分の好きなようにあかりをつくってみたいなっていう気持ちがずっとあったので、すごく良い機会だなと思って劇研に決めました。
―北原さんは昨年の劇研の新人試演会『凡凡BonBon』で照明を担当されていましたね
劇研には人を集める環境がある
―露と枕の紹介をお願いします。
井上 2018年4月に旗揚げしました、露と枕っていう劇団です。依存と純愛の肯定をコンセプトに、大体愛のお話を書いています。ジャンルはヒューマンドラマが前提になっているんですけど、サスペンスが多かったりとか、たまにSFやったりしています。私は作劇を担当しています。現在劇団員は、準(準劇団員)含め11名です。
露と枕ロゴ(画像をタップで公式サイトへ)
―サークル外で一般的な旗揚げをするのではなく劇研のアンサンブルとして旗揚げたのはなぜですか?
井上 私は高校生のときに脚本一本くらい書いただけだったので。劇団ってどうやってやっていくのかなとか、演劇ってそもそもどういう風につくったらいいんだろうなみたいな知識がなかったから、スタッフ業から何から全部知りたかった。それに一人でユニットや劇団を一からつくりあげるのは私には無理だなって思ってました。
人を集める環境があるっていうことと、スタッフ業とかもきちんと学べるってことがすごいお得だなって思ったので、劇研で劇団を作りたいと思いました。
とはいえ、そこまで当初は考えてなくて、女の主宰がいないって話を聞いたときに、これは劇団たてられたらすげーぞ、話題になるんじゃないかみたいな邪な気持ちで始めたんです。でも旗揚げを考えていくうちに、私は一人でこのままやっても劇団立てないだろうし演劇離れて終わるな、っていう予感があったので。なんとしてもアンサンブルを旗揚げよう、頑張ろうと思いましたね。
―ちなみに劇研で旗揚げるデメリットを聞いても良いでしょうか?
井上 デメリットから話すと、やっぱり時間がかかるし大変っていうことに尽きます。劇団の旗揚げって他のところだと旗揚げますって言ったら旗揚げなんですけど、劇研って色んな手順があって。まず公演をやりたかったら企画書を提出して劇研員に審議してもらわなくちゃいけない。それで公演をやっても旗揚げではなくて、旗揚げには『旗揚げ試演会』っていう、団体として旗揚げしてもいいかどうかを試演する公演をやらなければならない。もちろん旗揚げ試演会には審議も必要ですし、普通の公演より審議が厳しいです。普通の公演を何回か打って団体の強度を上げていって、やっと旗揚げ試演会にたどり着いて……っていう。それにはやっぱり時間がかかるし、心労もかかったなと思います。
―その分得たものもありますか?
井上 企画書をちゃんと作らないといけない分ちゃんと準備ができるので、稽古とかスムーズに進行しやすいです。脚本や演出をするにあたって自分の頭が最初に整理されている状態がつくられるから。まあその当時スムーズにいっていたかというとそうではないんですけど(笑)、その時にやってたことを続けていけばどんどん底が上がると思います。私なんかはそれがあったから、今何とかやっていけてるのかな、という気持ちはあります。
ある人からも言われたんですけど、演出家ってプレゼン能力が結構重要らしいんです。どれくらい自分の演出が役者さんやスタッフさんにわかりやすくプレゼンできるかっていう。だから、企画書の審議でプレゼンしてなかったら、今頃どうなっていたか、考えるだけでも恐ろしいです……。
早稲田大学演劇研究会 三ツ巴企画公演集第二弾『路地裏で犬を殺した』早大劇研での井上瑠菜初脚本・演出作品。撮影:谷水更
―旗揚げするにあたって苦労したことは?
井上 薄々気付いているかもしれないんですが、私プレゼンがとてもとても苦手で。言いたいことが思うように伝わらない、っていうのが、結構なストレスでした。審議は毎回緊張するし、公演も毎回緊張するし、何なら稽古一回一回も緊張するし。でもそこで折れなかったっていうのは自分の中で大きく自信として残っています。苦労したことって後から思い出すと良かったなって思っちゃいますけどね(笑)
劇団員は創作意欲の元
―劇団に所属する楽しみやメリットは?
北原 一番は自分のホームがあるってすごくいいことだなって思って。オーディションにいっぱい落ちたりしてくじけそうになって演劇やめちゃいたいなみたいな時もすごくあるんですけど、そういう時に定期的に公演に関われたり自分の意思が反映される演劇の団体があるっていうことは演劇に関わっていく上でとてもモチベーションが上がることだし、劇団は自分の演技形態や癖を一番理解してくださっている方々なので、そういうところで一緒に演劇が作れるのがやっぱりメリット、楽しみなのかなと思ってはいます。
あとやっぱり、外で出演するよりも作品作りに直に関われることが大きい。作品作りだけでなくて劇団の方針とか次こういうところでやったらいいかなとかそういうところにも自分の考えが反映されるところは劇団に所属しないとできないことなのかなと。
井上 やっぱり劇団員がいることに尽きます。私は劇研で旗揚げてなかったらこんなに恵まれた人たちと一緒に演劇をやることはできなかったから。演劇いやだな、やめたいなって思ってても、劇団員に会うとすっかり忘れちゃうし、一番の創作の源です。
脚本とか演出とかを考える時も、次はこの子にこういう役をさせたいとか考えるのは楽しいです。創作意欲の元になってます。
―露と枕での思い出は?
井上 大阪の修学旅行かな(笑)
北原 そうですね(笑) 楽しかったですね。
露と枕 Vol.2『春俟つ枕』撮影:小嶋謙介 おうさか学生演劇祭に招聘された。
井上 私たちは2018年の旗揚げ試演会の後に参加した、シアターグリーン学生芸術祭というところで最優秀賞をとって、おうさか学生演劇祭というところに招聘されたんです。それで大阪に一週間泊まり込んで公演をして帰ってきたんですけど、実質ただただ修学旅行だったっていう(笑)
北原 ソワレの前に観光してからソワレに行くとか。たこ焼き買って食べていくとか。なかなか今後ないんだろうなって経験をしました。
今後について
―劇団で今後やっていきたいことは?
井上 大阪が楽しかったから、ツアーしたいです。最終的には大きな劇場で定期的にできるようになりたい。作品の話で言えば、エンタメやりたいし、古典文学のリメイクとかもちょこちょこやっていきたいし、最近ハマっているノンフィクション小説とかルポルタージュとかを原案に作品作ってみたいですねー……。あと全く関係ないですけどバンドやりたいです。野望は色々あります(笑)
―演劇以外にもやっていきたい?
井上 やりたいです。有難いことに劇団員が本当に多彩なので、演劇以外にもいろんなものをつくることができたら楽しそうだなって思います。
北原 瑠菜さんからエンタメをやりたいってのをずっと聞いていて、私もエンタメをやってみたいので瑠菜さんらしさのあるエンタメをやりたいなって思います。あと、バンド、やってみたいです(笑)
―露と枕はいつまで続けますか?
井上 区切りとしては二つあって。一つは、一人になったらやめようと思ってます。露と枕という劇団は私一人のものじゃないから。私にとって一人になったってことは、人が離れた、つまり『劇団』をやる資格がないって言われたようなものだと思ってて。そうなったら私は、露と枕じゃない方向で演劇を続けるのか、演劇を辞めるのかのどちらかになるんだろうな。逆に私一人が死んでも露と枕やりたいって思ってくれる人たちがいたら続ければいいと思うし、劇団員が自分の他に一人でも残ってる限りは団体を継続させたいです。
あともう一つは、やりたい作品がなくなってしまったら。これやり切ったら終わりみたいなのを感じてしまったら、本当に演劇人生の終わりだと思うので。露と枕っていう劇団もそうですけど、個人的に作品を作るうえでも、まだやることが、やれることがあるって思いながらやっていきたい。マイナスの方向で「無理」「出来ない」って思ってる限りは踏ん張りたいけど、プラスの方向で「やり切った」って思っちゃったら駄目だ、と思ってます。
露と枕 Vol.3『煙霞の癖』撮影:谷水更
-劇団を旗揚げたい人に向けてひとこと
井上 すごい大変だ大変だみたいに言ったんですけど、私が大変だなって思っただけなので、そんなに気張らずに来てくれたら嬉しいです。作品がつくりたいっていう意欲があれば誰でもできると思うので。結局そのやる気とか意欲みたいなのをどう継続させていくか、継続させる力をどこに求めるかが重要だと思います。こんなご時世ですけど、ポジティブに演劇がやりたい、作品が作りたいって思ってる人はとても良い時間が過ごせる場所だと思うので、お待ちしてます!
北原 劇団ってひとりではできないもので、劇団員一人でも主宰一人でもできないし支え支えられの関係だと思います。旗揚げって言葉は脚本演出をやりたい一人に向けての言葉ではないし、素敵な仲間を見つけてぜひ素敵な劇団をたててほしいなって思います。
-演劇サークルに入ろうか迷っている人にひとこと
井上 さっきも言ったのですが、とても難しいご時世なので。私はいま正直、演劇をやるモチベーションをどこに保てばいいのかっていうのを探しながらやっているし、もしかしたら演劇をやっている他の人たちもそうなんじゃないかなって、感じています。その中でも新しい演劇の形とか、この時代でもできる演劇の形を模索している人たちはいて。だから、演劇やりたいっていう思いはすごく尊いものだと思うんです。それだけで自信を持っていいし、それだけで何か作れるはずだって。そういう人たちに負けないように私も頑張りたいし、そういう人たちが負けない場所に劇研がなっていけばいいなって思います。頑張りましょうね!!!!!
北原 劇研自体に結果や目的があるわけではなくて、ここは演劇をやりたいなって人のきっかけがいっぱいある場所だと私は思います。難しい時代ではありますが、今後につながる何かを見つけられる場ではあると思うので是非入会を考えてほしいです!
井上瑠菜さん、北原葵さん、ありがとうございました!
【露と枕次回公演情報】
露と枕Vol.5 『ビトウィーン・ザ・シーツ』(作・演出:井上瑠菜)
2020年11月第3週@シアター風姿花伝
―君の雌雄を呑みほして、ずっと酔っていたかった。
文化祭を控えた二学期の初め、若い男性教師が赴任してきた。女子だけの世界にやってきた男に生徒たちは浮足立ち、誰が先生のお気に入りになれるか、競い合うように華やいでいる。
学校の端では生徒会が文化祭の準備に掛かり切りだというのに、皆そのことを忘れてるようだった。真面目で、真面目だけが取り柄で、暗い生徒会室に入ったと思われている彼女たちのことなど、誰も見ていない。
彼女たちが何をしているかは、彼女たちしか知らない。
日の差さない小さな部屋に、内緒話と笑い声。息を潜めて、一人が言った。
「あの先生、抱けるんじゃない?」
古くて汚い学校、猫なで声を出すメスの匂い、中心にいる男の匂い。
全部が嫌いで、くだらない。彼女たちは生徒会最後の仕事である文化祭で、全てを壊してしまおうと画策し始める。
これは遊び。私たちの、悪戯。
今回で新歓インタビュー企画『劇研の声』は終了です。ありがとうございました!今後も公式Twitterや公式HP等で新歓情報を発信していくのでご覧ください。
【早大劇研2020年度新人募集】
18歳以上。
大学、所属、経歴、一切不問。
例年の入会までの流れ、新人訓練などについてはこちら。
今年度新人訓練は10月25日スタート。新人試演会は2月21日。(変更しました。)
最新情報は公式Twitterで公開。
新歓イベントや新人訓練等の詳細は今後の新歓スケジュールページにて。
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